退職後に事業を始めたら失業保険はどうなる — 再就職手当と受給期間の特例
離職後に自分の事業(自営・フリーランス)を始めた場合、基本手当の代わりに使える道が2つあります。1つは再就職手当で、支給要件の1つ目が「待期期間満了後に就職、又は事業を開始したこと」とされており、事業の開始も対象です。もう1つが受給期間の特例で、事業を行っている期間を最大3年間、受給期間に算入しないことができます(雇用保険法20条の2、2022年7月1日施行)。ただし特例の要件には「当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと」が含まれるため、同じ事業で両方を受け取ることはできません。特例の申請期限は「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」の翌日から2か月以内です。
基本手当が支給されるのは「失業している日」
雇用保険法4条3項は「失業」を、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることと定めています。事業に専念していると認められる日は、この状態にあたりません。どこからが専念にあたるかはハローワークが個別に判断します。
一方で受給期間(原則、離職日の翌日から1年)は、事業を始めても止まらずに進みます。厚生労働省は特例の説明で「仮に事業を休廃業した場合でも、その後の再就職活動に当たって基本手当を受給することが可能になります」としており、これは特例を申請しなければ事業をしている間に受給期間が終わりうることの裏返しです。受給中に働いた日の扱いは受給中のアルバイトに整理しています。
事業の開始でも再就職手当の対象になる
ハローワーク「再就職手当のご案内」は、支給要件の1つ目を「受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、又は事業を開始したこと」としています。就職に限られていません。同資料は「自営を開始した場合も、待期期間満了後1か月の期間経過後より対象となります」とも明記しています。
額は支給残日数と支給率で決まり、所定給付日数の3分の2以上を残していれば70%、3分の1以上なら60%です。算定に使う基本手当日額には別の上限があり、計算方法は再就職手当の条件と計算方法にまとめています。
- 待期期間中に仕事等をして失業の状態でなかった日は、待期期間に含まれない
- 就職日の前日までの失業の認定を受けたうえで、支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
- 過去3年以内に再就職手当または常用就職支度手当を受けていないこと(事業開始にかかる再就職手当も含む)
受給期間の特例 — 事業の期間を最大3年まで算入しない
雇用保険法20条の2は、基準日後に事業を開始した受給資格者が公共職業安定所長に申し出た場合、その事業の実施期間を受給期間に算入しないと定めています。算入しない日数の上限は条文上「4年から本来の受給期間を除いた日数」で、原則の受給期間が1年なので最大3年になります。
対象になるのは、2022年7月1日以降に「事業を開始した場合」「事業に専念し始めた場合」「事業の準備に専念し始めた場合」のいずれかです。厚生労働省のリーフレットは、申請できる事業の要件として次の5つをすべて満たすことを挙げています。
- 事業の実施期間が30日以上であること
- 「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかから起算して30日を経過する日が、受給期間の末日以前であること
- 当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと
- 当該事業により自立することができないと認められる事業ではないこと(登記事項証明書・開業届の写し・事業許可証等で事業の開始、事業内容と事業所の実在が確認できること等)
- 離職日の翌日以後に開始した事業であること(離職日以前に開始し、離職日の翌日以後に専念する場合を含む)
事業開始等による受給期間の特例(2022年7月1日から)
- 受給期間に算入しない期間の上限
- 3年
- 申請期限
- 2か月事業を開始した日などの翌日から起算
- 対象となる事業の実施期間
- 30日以上
出典: 厚生労働省「離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」(LL040609保01) / 最終確認: 2026年8月25日
同じ事業で両方は受け取れない
特例の要件の3つ目が「当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと」です。再就職手当を受け取ると、その事業について受給期間の特例は申請できません。
逆に、再就職手当を支給申請して不支給となった場合には救済があります。厚生労働省のリーフレットは「就業手当または再就職手当を支給申請し、不支給となった場合は、この期間を超えてもこれらの手当の支給申請日を特例の申請日として受給期間の特例を申請できます」としています。2か月の期限を過ぎていても、その支給申請日が特例の申請日として扱われます。
どちらが有利かは、事業が続くかどうかと支給残日数によって変わります。当サイトは個別の判断を行いません。申請の可否と手続きはハローワークで確認してください。
| 比べる点 | 再就職手当 | 受給期間の特例 |
|---|---|---|
| 受け取るもの | 支給残日数の60%または70%の一時金 | 給付ではなく、受給期間を最大3年まで進めない扱い |
| 事業が続いた場合 | 受け取り済み | 使わずに終わる |
| 事業を休廃業した場合 | 受給期間は原則どおり離職日の翌日から1年 | 算入しなかった期間のぶん、あとで基本手当を受けられる |
| 同じ事業での併用 | できない(特例の要件3つ目) | できない(同左) |
落としやすい期限と、特例が使えない場合
特例で最も落としやすいのは申請期限です。「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」の翌日から2か月以内で、提出先は住居所を管轄するハローワーク(受給資格決定をそれ以外で行った場合はそのハローワーク)です。本人の来所または郵送で、代理の場合は委任状が要ります。
要件の2つ目の裏返しとして、受給期間の末日まで30日を切ってから事業を始めた場合、特例は適用されません。リーフレットも「受給期間が残り30日未満の日数で起業したケース」を、特例が適用されない例として図示しています。
提出書類は、受給期間延長等申請書と、受給資格の決定を受けていない場合は離職票-2、受けている場合は受給資格者証、そして事業を開始等した事実と開始日を確認できる書類です。事業の準備に専念し始めた場合は、金融機関との金銭消費貸借契約書の写しや事務所貸借のための賃貸借契約書の写しなどが挙げられています。
| 対象 | 期限・条件 |
|---|---|
| 受給期間の特例の申請 | 事業を開始した日などの翌日から2か月以内 |
| 特例の対象になる事業 | 実施期間が30日以上、かつ開始等から30日を経過する日が受給期間の末日以前 |
| 再就職手当(事業開始) | 待期期間満了後1か月の期間を経過した後の開始 |
| 再就職手当の支給残日数 | 所定給付日数の3分の1以上 |
事業の前に学ぶ場合 — 給付の対象になる講座とならない講座
事業を始める前に技能を身につける場合、講座は2種類に分かれます。厚生労働大臣が指定した教育訓練講座は教育訓練給付の対象で、受講料の一部が支給されます。2025年4月以降は、一定の条件を満たす教育訓練を受けることで給付制限が解除される扱いもあります。
指定を受けていない民間の講座は教育訓練給付の対象外で、受講料は全額が自己負担になります。どちらにあたるかは厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システムで講座名から確認できます。「給付の対象」と広告に書かれていても、指定講座であることの確認はこの検索が唯一の手段です。
受給中に報酬を得る仕事をした場合は、失業の認定で申告が必要です。学ぶこと自体は申告の対象ではありませんが、学びながら受けた仕事の報酬は対象になります。
よくある質問
- 開業届を出すと失業保険はもらえなくなりますか?
- 基本手当は「失業している日」について支給され、雇用保険法4条3項は失業を、離職し、労働の意思及び能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態と定めています。事業に専念していると認められる日は対象になりません。開業届はその判断の材料の1つで、受給期間の特例では事業の開始を確認する客観的資料として挙げられています。判断はハローワークが個別に行います。
- 受給期間の特例はいつまでに申請すればよいですか?
- 「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかの翌日から2か月以内です。ただし就業手当または再就職手当を支給申請して不支給となった場合は、この期間を超えても、その支給申請日を特例の申請日として申請できます。
- 再就職手当と受給期間の特例は両方使えますか?
- 同じ事業については使えません。特例の要件に「当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと」が含まれるためです。どちらを選ぶかは事業が続くかどうかと支給残日数によって変わるため、ハローワークで確認してください。
- 事業がうまくいかず休廃業した場合、基本手当はもらえますか?
- 受給期間の特例を申請していれば、事業を行っていた期間(最大3年)は受給期間に算入されないため、休廃業後に残りの基本手当を受給できる可能性があります。厚生労働省の資料も、仮に事業を休廃業した場合でもその後の再就職活動に当たって基本手当を受給することが可能になると説明しています。特例を申請していない場合、受給期間は原則どおり離職日の翌日から1年で終わります。
- 受給期間の末日が近いのですが、いま事業を始めても特例は使えますか?
- 特例の要件の2つ目は、事業を開始した日などから起算して30日を経過する日が受給期間の末日以前であることです。厚生労働省のリーフレットは、受給期間が残り30日未満の日数で起業したケースを、特例が適用されない例として図示しています。
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出典と更新情報
- e-Gov法令検索「雇用保険法」
- 厚生労働省「離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」(LL040609保01)
- ハローワークインターネットサービス「再就職手当のご案内」
- 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム
データ最終確認: 2026年8月25日 / 次回の制度改定予定: 2027年8月1日